木曜日, 24 of 9月 of 2020

世田谷「ガキ」殺害予告事件

P1090588←世田谷区役所
1月10日。よく晴れた三連休の初日にもかかわらず、世田谷の街中や公園ははしゃぎ回る子どもたちの姿が少なく、静かだった。
テレビや新聞で伝えられた「子ども殺害予告メール」を警戒し、多くの親子連れが外出を控えたためだ。
また第2土曜日のため区内の多くの小中学校で授業が行われたが、集団下校への付き添いを余儀なくされた保護者もいた。
筆者自身も世田谷区に住み、子育てをする身だが、その日は子どもとともに落ち着かない気持ちのまま自宅で過ごした。
殺害予告から6日が過ぎた15日現在、幸いにも世田谷区では関連する事件は報告されていない。
警察の捜査情報と犯人逮捕が待たれる中、単なるイタズラだと片付ける段階にはなく、引き続き子どもたちの安全にはいつも以上に注意を払う必要がある。
ネット上でも多くの情報が拡散されたこの事件だが、実は殺害予告が出された当日に不正確な情報が多く出回り、ある種の混乱状態になっていたことをご存じだろうか。
それは、行政の対応がネットによる情報伝達のスピード感に対してあまりにも無頓着だったことが原因だった。
非常時にこそ活用したいネットの情報伝達力。
それを生かすために何が求められるのか、整理してみたいと思う。
 

——————————–
事の発端は、前日の9日11時52分に世田谷区役所へ届いたメールだった。
件名:世田谷区のガキを皆殺しにします。
本文:明日午後2時できるだけ多くのガキを殺す。
区の公式サイトに設けられている「お問い合わせセンター せたがやコール」の問い合わせフォームから送信された。
「世田谷区」という限定されつつも広範な地域で、明日(10日)14時と時刻を予告し「できるだけ多くのガキを殺す」という悪質な内容だ。
この殺害予告情報は当日の17時頃から拡散され、
「世田谷に子どもの殺害予告があったらしい……子どもたち、気をつけて!」
「この情報を知らない保護者の方へ念のため教えてあげてください」
などとツイートされていた。善意の情報共有が広がった形だが、この段階では実は多くの人が「らしい」「念のため」「デマかもしれないけど」といった書き方をしている。
世田谷区の公式サイト上に何一つ情報がなかったためだ。
情報はニュースサイトでも伝えられていた。
http://breaking-news.jp/2015/01/09/015972
この記事も大量に拡散されたが、タイトルにある「世田谷区危機管理センター」という部署は実在しない。
正確には「危機管理室 危機管理担当課」がこの事件についての広報を記事掲載後に発信している。
些細な相違かもしれないが、実在しない部署名を検索したことにより情報の出所を疑った人もいたと推測される。
区の公式サイトで正式に情報が出されたのは18時。
以降、区からのメーリングリスト登録者へも関連情報が続々と配信された。
筆者自身は、公式サイトと妻から転送された「子ども子育て情報のお知らせ」メールによってこの殺害予告が事実であることを確認したが、「区役所へ電話で問い合わせた」とツイートしている人もいた。
区が公に情報を発信していない段階からネットで拡散されていたために、それが事実であるのか確認できなかったのだ。
それでも善意の拡散が広がり、結果的に混乱を招いていた。
区内に在住し子を持つ親であれば、この情報は軽く受け流せるようなものではなかっただろう。
なぜ公表前に拡散?
区のずさんな対応が明らかに
殺害予告当日の一連の混乱について、世田谷区議会議員の風間ゆたか氏がその原因を詳細に調べ、「お粗末な子ども殺害メールの対応」として自身のサイト内で公表している。
事実関係が明確な資料として紹介したい。
http://kazamayutaka.com/2015/01/09/3960/
風間氏は区の対応について、3つの問題点を指摘する。
(1)メール受信から区民への情報提供まで6時間もかかっていること
(2)公表前にネットで情報が拡散されるという情報管理の甘さ
(3)実際に受信した内容(件名や本文)を公開しておらず、隣接する大田区が発信した情報の方がより正確だった(実は大田区の方が先に情報提供を始めていた)。
区の危機管理室の対応としては、警察との協議の上で、即座に情報を出すことを控えたという。
その背景は明らかにされていないが、無用な混乱を避ける意図があったのかもしれない。
そうだとしても、非常に危険かつ切迫した内容の脅迫メールが送られているにもかかわらず、公表が6時間後というのは遅すぎる。
またそんな状況にもかかわらず、なぜか当の危機管理室から区内の私立小学校関係者にのみ情報が流れていた(公立小学校は教育委員会の管轄のため情報が流れなかった)。
そのため、世田谷区内の私立小学校に子どもを通わせている「大田区在住」の保護者の知るところとなり、知らせを受けた大田区がいち早く注意喚起情報を出した。
以上が風間氏が確認した内容で、3つの問題点の原因だ。ほかに筆者が確認したところでは、「危機管理センター」という実在しない部署名は大田区が発信した情報が誤りの出所であったと思われる。
また大田区からは16時過ぎには情報提供が始まっており、ネット上の情報拡散もここから始まったようだ。
http://matome.naver.jp/odai/2142079385112398501
まさに「お粗末」としか言いようがない事の顛末。
正体不明の情報に驚き、多くの保護者を戦々恐々とさせた原因は、世田谷区危機管理室のずさんな対応にあった。
とりわけ深刻なのは、「正確な情報をいち早く提供しない」ことによってネットが混乱することを、まったく想定していないと思われることだ。
これが単なるデマだとしたら、笑える話ではないがまだ事後の教訓話として片付けられたかもしれない。
だが殺害予告メールは事実送られていた。
「世田谷区のガキを皆殺しにする」という強烈な言葉を使って、地域社会全体が脅迫されているのだ。
風間氏は区議会でこの問題を徹底追及していくとしているが、ぜひ納得のいく形で区民へ改善策を示してほしいと思う。
ネットの力と善意を生かすために必要なこと
筆者個人としては、今回の事件について別の角度から思うことがあった。
それは、「拡散すべき情報をいかに見極められるか」ということ。
ネットのつながりと情報伝達力の真の価値は、事件や事故、災害と直面した非常時にこそ発揮されるものだと思う。
だがその価値を生かすためには、ユーザーそれぞれの拡散しようとする情報が正しいことが前提条件。
非常時に誤った情報が伝わることは逆効果にもなり得るし、さまざまな事例からネットの力を知っている私たちは、ときとして情報発信に慎重になることもある。
「大田区の人から聞いたんだけど、世田谷区役所に殺害予告のメールが届いたらしいよ」
これだけの情報で、つながりのある人々に注意喚起の情報を発信できる人は少数派なのではないか。
もしデマだったら……と考えると、拡散に加担したくないという心理も働く。
情報の出所を確認し、それが間違いないものであると判断できるからこそ、善意の拡散が広がっていくのだろう。
行政をはじめ、非常時に第一次情報を発信する立場にある方々には、ぜひそれを意識してほしいと思う。
危機に際して大きな助けとなるネットのつながりと情報伝達力を支えるのは、正確でスピーディーな第一次情報なのだ。
土曜日、自宅の窓を開けていつもより静かな世田谷の街を眺めつつ、なるべくなら危機は訪れないでほしいと思った。
けれど天災などの非常事態はいつか必ず訪れる。
そのときに正しい情報を取捨選択し、拡散できる状況を作れるのか。
ネットの力を使いこなす広報体制が求められている。


Leave a comment